SPIDER Special Interview
SPIDERで得られる”ライフスタイル”――これは何事にも代え難い

■ 社会的コストを考えてもSPIDERが理想

――そんな夏野さんが、今、SPIDERに求めていることは?

 デジタル放送への対応。ただ、これだけに尽きます。デジタル放送に対応すると、ハードディスクの容量なども増え大変でしょうけれど、価格は無理をしてまで下げなくてもいいんじゃないかと思います。
 というのはDVDプレーヤーとかHDDレコーダーをヘビーに使いこなしているユーザーの方々は、これらの機器をものすごい頻度で買い替えてもいます。
 それまでの普通のAV機器の買い替えの頻度は、おそらく15年くらいだったと思うんですが、これらデジタルの機器は、パソコンと同じで毎年毎年、価格もどんどん安くなれば、性能もどんどんあがっていくので、2年くらいの周期で買い替えている人も多い。
 でも、SPIDERは全部録りだし、ソフトのバージョンアップもあるから、1回買えばずっと使い続けることができます。下手をすれば10年でも使えてしまう。
 それに、これを買うことと引き換えに得られる「ライフスタイル」――これは何事にも代え難いと思います。
 うん、高い方がいいかもしれませんね。それでもちゃんとわかって買う人の方が、ちゃんと使いこなせる。値段は高くなるけれど、その代わり、完璧な機能を提供する。
 で、わかっていて買ってくれる人は、高い出費になるけれど、その代わり、ライフスタイルが激変して、高い満足度が得られる。その方が製品戦略上、正しい気もします。変にSPIDERの本質を誤解されかねない廉価版とかは出さない方がいいんじゃないかとすら思いますね。

――ハイビジョンの大型テレビとかも使っていらっしゃいますが、画質は気になりませんか?

 今、大勢の人がYouTubeとかでテレビ番組を見ているけれど、誰もYouTubeの画質のこととかに文句は言いません。
 結局は画質よりも便利さですよね。で、そう考えると、何の予約もなしに好きな番組を見まくれるSPIDERは、まさに「これぞIT」という感じを受けますね。
 ITというのは、何もすべてをネットワーク上に置くのがよしというものではありません。あるものはネットワークに置くし、あるものはローカルのハードディスクにストアをするといううまい棲み分けをしていくのが本当の理想です。
 そう考えて、資源の有効利用方法とかをつきつめていくと、大勢の人に効率的に情報を伝える放送波で情報を配信して、それを快適に情報を呼び出せるローカルのハードディスクに蓄積しておく、さらにその情報を有効活用するのに必要なメタデータだけをネットワーク経由で取得するという、このSPIDERという製品のスタイルが実はベストなんですよね。
 画質から話がそれましたが、「SPIDERのような使い方をすると24時間×7日間遡れる、画質をとると遡れない。さあ、どっちが欲しいですか?」と聞いたら「遡れる」方がいいに決まっています。
 もちろん、この全録画が果たせた上で、画質向上をしてもらうのであれば、いくらでもしてもらって構いませんが(笑)。

――ネット側にコンテンツを置くという考え方もありますよね。

 それはブロードキャスト効率をまったく無視した考え方で、これからハイビジョン化など画質が高まれば高まるほど意味がないんです。僕はIT業界側の人間ですけれど、物事には向き不向きがあって、「ある一定の人数以上の人が見たいもの」については放送波を使って空から降らせた方が資源の有効利用という観点でも、社会的コストを抑えるという観点でも正しいんです。

――全録画スタイルってコンテンツをつくる側はどう受け止めると思いますか?

 日本って、これでも海外と比べるとテレビ局の数は少ないんですが、それでもすべての番組を追うっていうことはできないわけじゃないですか。だから、SPIDERの存在って番組を提供する側にとってもいいものだと思いますよ。
 ドラマだって、11回の放送のうちだんだん視聴率が下がっていくわけですよ。というのも絶対に見逃す奴が出てきてしまうから。
 でも、それって「もったいない」じゃないですか。「なんで、その時間じゃなきゃ見ちゃいけないっていうルールをつくっちゃうの?」っていうことですよ。
 今は24時間スーパーだってでてきたし、TSUTAYAだって24時間。コンビニだってあるわけだし、みんながみんなバラバラのライフスタイルを送っています。そんな中でみんながみんな8時からのドラマを見るなんていうことはありえないわけですよ。
 この多様化するライフスタイルという、今さら無くならない視聴者のニーズにテレビが応えようとするならば、時間差視聴しか道はないんですよ。そういう意味ではSPIDERは最高のマシンですね。

[聞き手:有吉昌康(PTP)/文・構成:林 信行/写真:庄司直人]

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